設計のプロとして多くのお客様と向き合う中で、リフォームとリノベーションの境界線はどこにあるのかという質問を頻繁に受けます。私はいつも、それは建物の物語を書き換えるかどうかの違いであると答えています。リフォームは、いわば物語の途中で汚れたページを消しゴムで消し、綺麗に書き直すような作業です。主人公もストーリーも変わりませんが、見た目は整い、読みやすくなります。一方、リノベーションは、これまでの登場人物や背景を活かしながらも、全く新しい章を書き加え、結末さえも変えてしまうような創造的なプロセスです。例えば、一軒の家を二世帯住宅に変更したり、事務所として使われていたビルを住居にコンバートしたりする行為は、建物の用途や定義そのものを変えるリノベーションの典型例です。技術的な側面で見れば、柱や梁といった構造体以外のすべてを一度解体するスケルトン工事を伴うかどうかが一つの目安になりますが、それ以上に重要なのは設計思想の深さです。リフォームは現状の不満を解消することに重きを置きますが、リノベーションはまだ見ぬ理想の生活を実現することに情熱を傾けます。お客様がキッチンを使いにくいと感じているとき、新しいキッチンを同じ場所に設置することを提案するのがリフォームの視点です。それに対し、なぜ使いにくいのかを追求し、キッチンの向きを変え、リビングとの関係性を再構築し、食事という行為そのものの意味をデザインし直すのがリノベーションの視点です。建築家として大切にしているのは、その建物が持つ歴史を尊重しつつ、現代の技術で新たな命を吹き込むことです。どちらの手法が優れているということではなく、その建物にとって、そして住む人にとって何が必要なのかを正しく見極めることが重要です。リフォームで十分なケースもあれば、リノベーションをしなければ解決しない深い悩みもあります。私たちは対話を通じて、建物の現在の声を聴き、お客様の未来の夢を形にするための最適な境界線を探り続けます。そのプロセスこそが、住まいを特別な場所に変えるための魔法であり、建築家としての最大の喜びでもあるのです。
建築家が語るリフォームとリノベーションの境界線