リフォームのデザインを考えるとき、間取りや色使いに注目が集まりがちですが、空間に本物の質と深みを与えるためには、「素材感(テクスチャー)」へのこだわりが不可欠です。素材感とは、その物質が持つ視覚的、そして触覚的な質感のことです。つるつる、ざらざら、ごつごつ、ふわふわ。私たちの五感に直接訴えかける素材の力を巧みに取り入れることで、リフォームは単なる表面的な改修から、愛着を持って長く付き合える、深みのある住まいづくりへと昇華します。素材感をデザインに取り入れる上で、最も象徴的な存在が「木」です。特に、一枚の木から切り出された「無垢材」は、その温かみのある手触り、心地よい香り、そして美しい木目で、空間に比類のない安らぎを与えてくれます。無垢材は、湿度が高い夏には湿気を吸収し、乾燥する冬には水分を放出するという調湿効果も持っており、日本の気候に適した素材です。年月を経るごとに色合いが深まり、傷さえも味わいとなる経年変化は、家族の歴史と共に住まいが成長していく喜びを感じさせてくれます。フローリングや建具だけでなく、壁の一部に羽目板を張るなど、アクセントとして取り入れるのも効果的です。木とは対照的に、空間にシャープさやモダンな雰囲気をもたらすのが「金属」です。例えば、階段の手すりや照明器具、ドアハンドルなどに、マットな質感の黒いアイアンを取り入れると、空間全体が引き締まり、インダストリアルで洗練された印象になります。また、キッチンカウンターをステンレスのバイブレーション仕上げにすれば、プロの厨房のような機能美と高級感が生まれます。最初は輝いている真鍮が、使い込むほどに酸化して、くすんだ味わい深い色合いに変化していく様子も、素材そのものを楽しむ醍醐味の一つです。さらに、左官職人の手仕事が生み出す「塗り壁」も、独特の素材感で空間を豊かにしてくれます。漆喰や珪藻土といった自然素材の塗り壁は、コテの跡が残る仕上げ方によって、均一なクロスでは表現できない豊かな陰影と、手仕事ならではの温かみを生み出します。調湿性や消臭性に優れているという機能的なメリットも持ち合わせています。これらの本物の素材は、工業製品のように均一ではありません。一つひとつ表情が異なり、時にはメンテナンスに手間がかかることもあります。
素材感にこだわることでリフォームは深化する